官僚の裁判官では裁判は無理 | ||||
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近年は、友人・知人から頂く葉書は、ほぼ、「喪中」のお知らせか、第一線を退きますというご挨拶状ばかりとなっている。少し前までは、これに、裁判官や検察官からの、「この度・・・の勤務を命じられ、過日無事に着任いたしました」という転勤のお知らせがよくあった。不思議なのは、裁判官も検察官も、ほとんど同じような文面であったことである。彼らは、だいたい3年ごとにいろんな場所を転勤させられるのが、当然のようになっており、それは今も基本的に変わっていないはずである。 ところで、昨今、日銀の独立性だとか、日銀総裁は官僚でいいとか悪いとか、マスコミで騒いでいるが、本来、それよりもっと関心がもたれるべき裁判官の独立性、あるいはは脱官僚、と言った議論が、全くと言っていいほどないのは、どうしたことなのだろう。「官僚」という言葉が厳密にどういう意味なのかは知らないが、少なくとも、それは裁判官にはふさわしくない言葉であろうと思っている。検察官については、いわゆる官僚ではないであろうが、組織の一員という意味では、ある程度官僚的であっても仕方がないとは思うが、さすがに裁判官がそれでは困る。しかし、その裁判官の新任地着任の挨拶状をみると、「官僚とどこが違うの」と言わざるを得ない。こんな役所組織の中で泳いでいるような人間に、人の争いに決着をつけさせるのは、無理であろう。裁判というのは、裁判官がやるから裁判なのであり、裁判所でやる事務処理が、裁判となるわけではない。 まだ修行の身で、裁判所で研修を受けさせられていた時のことであるが、私から見ても骨のある裁判官がおられた。3人の合議制の裁判所の中で2番目の地位にある人だったが、その人が、一番偉い裁判長から、「・・・さんは、どうして、東京の任務が終わると・・・へ帰るのか」「何とか、・・・への転勤等を検討してもらえないか」といった話をされていたのを覚えている。何故、そのような話しに私が立ち入ってしまったのか不思議な気もするが、その時、その裁判官は「・・・は、私の大切なところであり、愛着もあることから、3年間の東京での勤めの後は、戻してもらうことにしています。ご心配をかけて申し訳ありませんが、(出世はできないことは覚悟の上であり)どうぞ気になされないで下さい」と言った返事であった。それを聞いて、何か、ホッとしたことをよく覚えている。こういう人がいるんだ、と知って。 その方は、結局、能力はあっても、自分の意思を強く出し、東京とある地方都市を行ったり来たりしたので、出世はできなかったはずであるが、そもそも、裁判官のような人は、簡単に転勤に応じるような素直な人間ではおかしいはずである。このことは、裁判自体にも悪影響を与え、証人尋問が終わった後で転勤になり、新しい裁判官が書面だけを見て判決をするという例がよく見られる。あるいは、自分の転勤時期を計算に入れての訴訟の進行を指揮すると言った問題までも引き起こしている。出て行った人も、やってきた人も、ともに、その裁判に距離を置き、どちらも責任を取りたがらないという流れである。 修習の時代に私がいた部の裁判官は、どなたも立派な人であったと記憶する。少なくとも、役人的なにおいのある人たちではなかった。私は、別段、官僚が悪いといっているのではない。官僚になりたければ、役人になってほしいと言っているだけである。官僚になりたい人に、裁判官になってほしくないだけである。でも、現実には、私が若いころに出会ったような気骨のある人はどんどん減り、今や、裁判所は、官僚タイプの人間であふれかえっているように思われてならない。 そして、最近は、人事交流だとか寝ぼけたことを言って、裁判官が検事役をやったりして、それでなくても役人的な裁判官をさらに官僚の一部に取り込んでしまっている。裁判官には、唯我独尊でいいから、独立心のある人に努めてもらいたいものである。そうでないと、三権分立の意味がない。 |
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